さて連載企画も第3回目。今回取り上げるのはドゥカティです。
ご存じの通りワタシの元相棒はマイナーイタリアン(アプリリア)でしたから、ワタシの友人知己にはドゥカティ乗りが非常に多く、そういう意味ではビューエル編以上に厳しいツッコミが予想される恐怖と戦いつつ執筆しております(笑)
ドゥカティは、ある意味で日本人ライダーの想像する「外車」を体現していたブランドと言えます。
手が掛かる割に大して速くなく、うるさくて乗りにくいバイクと、そんな代物に喜んで乗る
変人ライダー…BMWがある種「良心的な外車」という印象を与える(コレは、BMWが高級四輪車も作るメーカーだと言う点も、そのブランドイメージに寄与しているでしょう)のに対して、ハーレーとドゥカティは外車世界の両極に位置するポジションにあり、こうした「外車」と「外車乗り」のイメージ形成に寄与してきたと言えます(その一翼を担ったのは、乗りにくいバイクを有り難がるような論調を多用した、いわゆるエンスー系マスコミでしたが)
では、ドゥカティは本当に乗りにくいバイクだったのか。それが実像であるならその原因は何だったのか。事実、80年代までのドゥカティはこうしたイメージ通りのバイクだったわけですが、その要因は国産車との設計思想の違いにありました。
ドゥカティは、デスモドロミック(バルブ強制開閉機構)を備えた90度Vツインを前傾搭載するレイアウトを伝統としています。前バンクを水平近くまで前傾させたそのレイアウトが、横から見るとL型に見えることから「Lツイン」と呼ばれる(他社の90度V型エンジンにも似た搭載方法を採ったものはありましたが、それらがL型と呼ばれることがなかったことから、「Lツイン」という呼び名はドゥカティのみに与えられた
尊称と言えます)このエンジンレイアウトが、ドゥカティの個性の原点になっています。
ツイン、それも縦置きのVツインの大きなメリットは、エンジン幅を単気筒並みにスリムにできる点にあります。エンジン幅のスリム化は、バイクの旋回機動のキモであるロール性能の向上につながるため、
縦置きVツインはコーナリングに優れたレイアウトであると言えます。
一方、ドゥカティのLツインレイアウトは、ツインとしては重心を低くできるメリットがある一方、エンジン前後長が長くなることからエンジン搭載位置の前進が難しく、結果フロントの静的荷重不足を招きます。またエンジン前後長の長さ故にスイングアームの延長(トラクション効率の向上)も難しくなります。空冷エンジンだった頃には前バンクの冷却導風の問題もあった為余計にフロント荷重が不足していましたから、
ツインのメリットであるはずの「ロールレートの高さから来る一次旋回性能の高さ」を生かすことができないフレームレイアウトを採用せざるを得なかったわけです。
これにさらに、ドゥカティより重く、フロント荷重も高い国産4気筒に適応したタイヤが追い討ちをかけます。高荷重+高速対応のためタイヤのケーシング剛性は高くなり、荷重不足のドゥカティはそうしたタイヤを有効に使うことができなかったため、より一層ドゥカティのハンドリングを難しくしたわけです。
ドゥカティのフレームレイアウトの特徴として、スイングアームピボットをクランクケース側に持つピボットレス構造が挙げられます。コレは、エンジン前後長が長くなるLツインレイアウトでスイングアーム長を稼ぐための工夫ですが、同時にこのレイアウトによって、スイングアームピボットとドライブスプロケットとの位置関係が車種に関係なく一定値になるわけです。
バイクの旋回機動のポイントとなる、駆動力をかけた際のリアサスの伸び上がり挙動は、この位置関係+スイングアームの対地角などで決まりますから、ドゥカティのエンジンを積んだバイクは、その時点で「スロットルを開けた時の挙動」が似たようなものになるわけです。車種ごとのキャラクターに応じたハンドリングを演出しづらいデメリットはあるものの、ドゥカティのブランドとしての個性の統一感はこの構造に多くを依っています。
さて。
ドゥカティのスポーツバイクとしての復権は、80年代後半に実用化されたいくつかのテクノロジーのおかげでもありました。バイク用ラジアルタイヤとインジェクションです。
公道用ラジアルタイヤを初めて標準装備した市販車であるビモータdb1は、ビモータがドゥカティ750F1のエンジンを(ドゥカティ社から正式に供給を受けた。それまでのビモータは完成車を分解してエンジンその他機能パーツを自社製フレームに搭載する方法で車両製作していたため、その調達コストから経営が逼迫していた)オリジナルフレームに搭載して制作したマシンです。

名デザイナー、マッシモ・タンブリーニのビモータ時代最後の作品となったdb1は、標準装備のラジアルタイヤ、ピレリMP7の恩恵もあって、
歴史に残るハンドリングマシンとなりました。タイヤのケーシング剛性の自由度の高いラジアルタイヤは、それまで荷重不足でタイヤ性能をフルに発揮できなかったツインスポーツと非常にマッチングがよく、このタイヤを得たことがdb1のハンドリングに大きく寄与しています。
ドゥカティは公式には認めていないものの、このdb1の成功はドゥカティのマシン作りにも大きな影響を与え、似たアプローチでハンドリングを追求した750スポルトを生み出すことになります。現在のSS系に連なる空冷ドゥカティの始祖となったモデルです。
一方、db1を置き土産にビモータを去ったマッシモ・タンブリーニはカジバに移籍し、当時カジバ傘下にあったドゥカティのために「750パゾ」をデザインします。

db1の再来を期待したファンからはいささか肩すかしを食らった印象を与えるような、グランツーリスモ的性格のマシンとされた「パゾ」ですが、このマシンに搭載されたパンタ系Lツインは後ろバンクのヘッドが従来とは反転されており(それまでのLツインは前後バンクとも後方吸気/前方排気なのに対して、パゾ以降は前バンク前方排気/後ろバンク後方排気に変更)、排気系の取り回しの自由度や吸気温度の差による前後バンクのセッティングの不具合と言った従来のLツインの弱点の克服が目指されています。このエンジンはそのまま前述の750スポルトに搭載され、現行SS系などの空冷ドゥカティのパワーソースの源流となっています。
一方、バイク用インジェクションの実用化は、ビッグボアのツインにとって福音でした。
一般的にキャブレターは、排気量サイズに応じた混合気流量からその口径が決まります。1気筒当たりの排気量が大きいビッグツインの場合、必然的に大口径のキャブを装備するわけですが、キャブ口径の大型化は、スロットル急開時の吸気流速の不足を招きやすく、扱いにくいエンジン特性になりがちでした。
「スリムでロールレートが高く、一次旋回性がいい」ツインのもう一つの強みは、不等間爆発+トルクの立ち上がりの強烈さから得られる、コーナー立ち上がり時の強烈なトラクション(=二次旋回性に於いても4気筒を圧倒できる)なのですが、キャブではその強みを生かすためには繊細なスロットルワークが求められるわけで、それを十分に生かせるのはエキスパートのみだったわけです。
インジェクションの実用化によって、こうした問題はほぼ解決され、ツインの強みを格闘戦でも生かせる状況が揃ったわけです。
インジェクションとラジアルタイヤを備えたドゥカティのフラッグシップ「851」は、従来のパンタ系Lツインを水冷ツインカム化(カム駆動はパンタと同じくコックドベルト)したエンジンを、750F1系フレームに搭載したプロトタイプでレースの実戦テストを重ねられた後にデビュー。

排気量を上げた888を経て、(ビモータdb1の生みの親である)タンブリーニ設計による916系に進化します。
ドゥカティ916系は、ある意味
ドゥカティの個性の象徴とも言える設計で、スチール製トラスフレームに水冷Lツインを搭載し、リアサスはタンブリーニお得意の片持ちスイングアームと言う構成です。
車体は徹底的にスリム化され、ツインならではの高いロールレートを生み出しやすいレイアウトです。水冷化によってかつての懸案だった「前バンクの冷却」からは解放されたとはいえ、静的フロント荷重は依然として不足気味ですから、車体レイアウトから得られる高いロールレートで一気に一次旋回ヨーゲインを得る必要があります。スイングアーム長の不足によるトラクション効率の悪さは、トラスフレームのしなりでカバーするので、しっかり一次旋回で荷重をかけられればよく曲がる一方、倒し込みで迷ったりして一次旋回ヨーゲインが不足すると全く曲がらなくなる極端なハンドリングの持ち主でした。
さらにドゥカティ916〜996系は、中速域で暴力的にトルクが立ち上がるエンジン特性だった為、立ち上がりのスロットルワークにも繊細さが求められましたから、
乗りこなすにはかなりの修練を必要とする印象でした。
もう少し今日的なハンドリングを持ったツインスポーツであるアプリリアRSVミレから乗り換えるとその個性は際立っており、一方で
ヘタレを許容しないスパルタンさは、ドゥカティにしか許されない個性であると感じられました。この手のスポーツバイクとしては低く構えた車高で一見取っつきが良さそうに見える916系ですが、実は
恐ろしくスパルタンな乗り物であり、高い車高+大柄な車体でまたがった印象は最悪と言える(笑)アプリリアが、実は格段にユーザーフレンドリーなハンドリングを実現していたあたり、外見の印象とその乗り味が正反対でなかなか好対照でした。
ドゥカティ916シリーズは、スコット・ラッセル、カール・フォガティ、トロイ・コーサー、トロイ・ベイリスらの手によってワールドスーパーバイクのチャンピオンに君臨、一方で「マトリックス・リローデッド」にも出演するなど大活躍します。当時のスーパーバイクのレギュレーションは「2気筒1000cc、4気筒750cc」というツインに有利なモノだったのですが、
ホンダをしてVツインのスーパーバイクホモロゲーションモデル(VTR1000SP-1)を作らせるほどドゥカティの強さは圧倒的で、90年代におけるドゥカティブランドのイメージ向上に大いに寄与しました。
また、「マトリックス」への出演でも判るとおり、この916系のデザインは
「スポーツバイクのかっこよさ」のひとつの到達点とさえ思えるほどであり、後発のスポーツバイクのデザイントレンドに大きな影響を与えることになります。最近の車種でも、ホンダCBR1000RRのデザインあたりは、916系の影響ありありです。
参考までにもう一つ付け加えると、916系のかっこよさのポイントである左右異形ヘッドライトは、当初日本の車検規定(灯火類は左右対称配置でなければならないという規定があった)に合致していなかったことから、オリジナルデザインのままでの国内投入が絶望視されていました。
当時のドゥカティ輸入代理店であった村山モータースは、アプリリア輸入総代理店であったボスコ・モトと共闘してこの規定の変更を行わせ、その結果916系と(同様に左右異形ヘッドライトを採用していた)アプリリアRS250は、オリジナルデザインのままで日本市場に投入されることになりました。この2車種ののちの人気を思えば、この時の両社の決断は賞賛されてしかるべきだと思います。
その後ドゥカティは、アグスタブランドを手に入れたカジバから売りに出され、それに伴ってタンブリーニの設計から決別することになります。そうした背景から生まれた次世代モデルが、現行の999系になります。
ドゥカティ999は、916〜996系の次世代モデルとして、スーパーバイクレースに参戦することを目的に生まれたホモロゲモデルです。ゲーム中に登場する999Rはその中でも最もホットなホモロゲーションモデルであり、ノーマル仕様と比較して数々のスペシャルパーツが奢られています。
フレームレイアウトは916系から引き継いだスチールトラスですが、剛性と車高変化の問題があった(チェーンテンショナーが偏芯カムである片持ちスイングアームは、チェーン調整だけでも車高が変化してしまう。前述の通りピボットレス構造を持つドゥカティは、後輪車高/スイングアーム対地角のセッティングがシビアで、その点で片持ちは不利と言えた)片持ちスイングアームを廃止して、コンベンショナルな両持ちに変更されています。
外装はピエール・テルブランチの手になる新設計で、MotoGPを走るデスモセディッチとイメージを統一しています。ただ、この999のデザインは
好評とは言えなかったようで、限定生産のスペシャルマシン「デスモセディッチRR」や、次期主力戦闘機となる「1098」では、デザイン的には916系への回帰が見られます。

↑デスモセディッチRR

↑1098
「スポーツバイクのかっこよさ」の極致と言えた916系の後継モデルというコトで、いささか可哀想な面はあったと思いますし、現にスーパーバイクで活躍して「見慣れた」コトで、この999のデザインも捨てたモノじゃないと思うようになったのですが。
フレームレイアウトの変更とサスの設計変更、さらにスロットルに対するパワーサプライ特性を飛躍的に向上させた「テスタストレッタ」エンジン(916系の最終型「998」から採用)により、999系の乗り味は、かつての「ヘタレお断り」的な916系の印象を払拭、かなりユーザーフレンドリーな乗りやすさを得ています。乗りこなすこと自体が乗り手へのチャレンジだったかつてのドゥカティから、一定レベルの乗りやすさを与えることでよりアグレッシブなライディングへ乗り手をチャレンジさせる方向にシフトしたと見ることができますし、これは同時に、レースでの戦闘力向上にもつながると見ることもできるでしょう。
想定通り、999の戦闘力は一級品で、4気筒も1000ccまで出走可能となり苦戦が予想されたスーパーバイクのタイトルを奪還しています。
ゲーム中に登場するドゥカティ999Rのレース仕様は、このスーパーバイクに参戦しているワークスレーサーに酷似したカラーリングをまとっていて、気分を盛り上げてくれます(ゼッケンも、トロイ・ベイリスと同じ21番にしてみました)。
レースでの活躍が顕著なことから、とかくそのスパルタンなイメージが先行しがちなドゥカティですが、近年はストリートファイターの始祖であるモンスターや、オフ系のディメンションを持つムルティストラーダ、或いはメガモト(現行のスーパーモタードより大きい排気量のモタードレース)への参戦を睨むハイパーモタードなどの新型車をラインナップしています。そのブランドイメージから、あこがれはあっても乗ることを躊躇するライダーは多いですが、機会があればこの強烈な個性に接してみることをおすすめします。
※参考資料・取材協力
ドゥカティジャパン公式サイト
カツラダモータース(996S/748S/998試乗)
ドゥカティ乗りの友人多数(ウンチク・雑学ネタ提供)
※7/21写真を数点追加しました。